8.阿蘇・大観峰〜瀬の本高原〜黒川温泉〜牧の戸峠〜久住
2004/10/16・17

今回紹介するレポートは、去年アウトドアショップロッキー&鹿児島カヤックスのツアーに参加した時のものである。これをきっかけに私は自転車を買うことになったのだ。来月また参加する同ツアーを前にして、1年前のことを振り返ってみる。

10月16日(土)、福岡からの参加者と共に車で一路阿蘇を目指す。目的地はツーリングのスタート地点である阿蘇の大観峰。駐車場に着くと朝から既に多くの観光客で賑わっていた。空を見上げると雲一つない快晴の青空。遠くの山さえもすごく近くにみえる。そういえば週末にこんなに晴れたのは何週間ぶりだろう。この一ヶ月は台風が連続で来たり、そうでなくても前線が停滞して、しっくりこない天気が続いていた。それがツーリングデビューの日に、こんなに申し分ない秋晴れの天気に恵まれたのだ。いやがうえにも早く走りたい!という気分が盛り上がってゆくのであった。
それぞれ各自の準備が整ったところで、鹿児島カヤックスの野元団長から本日のコースの説明があった。大観峰から瀬の本高原を通って黒川温泉までのコースということである。いよいよスタートだ。駐車場を出てしばらくは坂を下り、やがて平坦な道になってきたところで勢いを付けて加速する。
 「気持ちいい! 最高だ!」心の中で叫んだその時! ガタガタガタ という振動にフレーム全体が揺さぶられた。一体何が起きたのか。スピードはみるみるうちに減速してゆく。一瞬自体を把握できなかったが、この嫌〜な感覚を徐々に思い出してきた。パンクだー!しかもスタートしてまだ5分!早っ! ま、まさかこれで私の初ツーリングは終わりなのか!?
成すすべなく路肩に停車する。やがて後方からY君がやってきたので、先を行く団長に状況を伝えてもらうよう頼むことができた。程なくして団長が戻ってきた。タイヤはガラス片か何かを踏んだようで、チューブは綺麗にズバッと切れていた。しかしさすがは自転車でオーストラリアなど世界の道を走る猛者たる団長である。てきぱきとチューブを交換して自転車は無事復活! いきなりの不戦敗だけは免れたのだった。
気を取り直して再スタート。これから瀬の本高原方面に向かって幾つもの緩やかな坂が待っていた。この次々と待ち受ける坂というのが、想像以上に厳しいものであった。えっほえっほと坂を漕いでゆくと、やがて坂の頂上が見えてくる。あれを越えたら下り坂かもしれない。とにかく頂上までがんばろうと自分に言い聞かせ、一生懸命漕いで頂上にたどり着くと、わずかな平坦な道の先に新たな坂が。今度こそとがんばると、またその先に坂が・・・ 普段から鍛錬していないので体力の消耗が大きいのは当然なのだが、期待して、裏切られの繰り返しによる精神的磨耗はそれをさらに加速させる。秋風に揺れるススキや牧草を食むウシ達。阿蘇ならではの草原の景色。しかし今の私はそんなもの見る余裕はなかった。
それでもどうにか休憩地点まで到着。自転車を降りるとかぐわしい焼きトウモロコシの香りが。今回のツアーは、がむしゃらに自転車漕ぐことだけでなく、寄り道つまみ食いも楽しもうということなのだ。香りに誘われてワラワラと店の前に群がるメンバー達。昼飯目前なのに、それぞれ生でも美味しい新鮮でシャキシャキのトウモロコシにかぶりつき、濃厚な搾りたて牛乳を味わう。
昼の昼食と休憩の後、続いての目的地である黒川温泉へはすぐに着いた。ここで自転車を停めて、温泉街をのんびりと散策ということに。黒川温泉街に来たのは随分と久しぶりである。

散策後、再び自転車へと跨り、一日目のツーリングの最終ポイントである黒川温泉のすぐ近くの小田温泉へと向かった。ここは黒川に比べてとても静かだった。今日の宿泊はキャンプ施設もある「のんびり荘」のバンガロー。何はさておき、とりあえず温泉に浸からなくては。きしむ体をじんわりと露天風呂の湯船に沈める。まじで最高だ。
温泉から上がれば次なる楽しみはもちろん、言わずもがなの宴会ということになる。初対面の人達とも、一緒に苦労や楽しみを分かち合えば仲間同士。乾杯のビールをギュ・ギュ・ギューっと流し込めば、誰しも出るのは言葉とも吐息ともつかない「プハー!」という声だ。周りが夜のとばりに包まれるのも忘れて宴は続く。いつしか澄み切った夜空には、満天の星がちりばめられていた。今日一日の天気には100点を付けざるを得ないよね。
二日目の朝も昨日に劣らぬ明るい太陽と対面することとなる。体調もすごぶる良いし、やる気満々のエネルギーに満ち溢れている。このエネルギーが最後までもつことを祈るのであった。何しろスタートの瀬の本高原からいきなりの難所で、九重へと向かうには牧の戸峠のうねる坂を越えなければならないのである。
全員でしっかりとストレッチを終え、気合を込めてペダルを踏み込む。やっぱり朝っぱらから坂はきついな。しかしカーブがやたらに多いということは、いくらか勾配が緩和されているということなのだろう。そう自分に言い聞かせて、黙々とひたすらに坂道を漕ぎ続けるうちに、いつしかスタート地点が見下ろせるほどのところまで上ってきた。前の人との差が広がってきたが、マイペースでぼちぼち漕ぐことにする。お陰で昨日より景色に目をやる余裕があった。

お昼に近づいた頃ようやく牧の戸峠に到着。標高のせいか涼しいというより寒いくらいだ。ここからは久住登山口まで長い下り坂となる。風を受けて涙がでてくるが、拭う余裕はない。上ってきた距離よりも長い坂だが、あっという間に登山口に到着。実にあっけないものだ。そこにはこんこんと沸く足湯温泉場があったので、ミルキーなソフトクリームをなめつつ足を温泉に浸して、峠を越えた実感をかみしめたのであった。
三俣山を望む絶好のロケーションにて昼食&休憩後、いよいよツーリング終盤戦へと突入だ。見通しの良い草原に囲まれた道を暖かい日差しを浴びながら走ると、何とも言えない心地よさに包まれる。後で思い出してもこの時が、このツアーで一番自転車に乗る喜びを感じた瞬間であった。

やがて筋湯温泉にさしかかり、いよいよゴールが近くなってきた。ところがここに来て最大の難所が待ち受けているとは思いもしなかった。筋湯を過ぎて急に坂の勾配がきつくなっていった。これには自転車を降りて押す人が続出。そんな中、我々を驚愕させた男がいた。ついには団長を除く全員が自転車を降りる中、一人だけがどんどん上ってゆく。それは普段から足代わりにしているというマウンテンバイクを駆り、笑みさえ浮かべながら軽々と上ってゆくY君の姿であった。ちょうどその時、左の方には水蒸気の煙を上げる地熱発電所が見える。マグマの力で10万キロワットもの電気エネルギーを生み出す発電所と、ツーリング初心者とは到底思えないパワフルなY君のイメージが妙にダブって笑いがこみ上げてきた。
太陽も少し西に傾いてきたころ、二日目のスタート地点であった瀬の本高原に到着。初挑戦で、とても長く感じた自転車ツーリングもついにゴールだ。何かを成し遂げた直後の充実感というのは、久しぶりに味わった気がする。そんな満足な気持ちを与えてくれたのは、抜群の天気と大自然、そしてスタッフの皆さんと最高の仲間達のおかげだ。それから数週間経ったある日、ピッカピカの自転車に乗って自宅を出る私の姿があった。






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