気の向くままに途中下車(後藤寺線・日田彦山線)


2007年8月26日




ふとした思いつきで、里山の風景に溶け込んだメガネ橋を見に行くことにした。スノーケリングやキャンプをする訳ではないので、荷物はデジカメ類のみ。身軽な時はできるだけ車で行くのはやめようと思い、のんびりと電車に揺られて行くことにした。
携帯電話で電車の時刻を調べてから家を出る。リニューアル工事中の博多駅のホームから、定刻通りに筑豊本線に乗りこんだ。普段は交通機関といえばバスにしか乗らないので、近距離・日帰りとはいえ、電車に乗るだけでちょっとした旅行気分になる。
新飯塚駅で後藤寺線に乗り換える。ベンチに座って音楽を聴きながら涼んでいるうちに、デイパックを抱きかかえるようにしつつ爆睡・・・ZZzz。
寝汗をかきながら、ハッと目を覚ます。慌てて時計を見ると、あらら電車はとっくに出てしまっていた。時刻表をチェックする。後藤寺線の次の電車は1時間後。ところがそれに乗っても、次に乗り換える日田彦山線はさらに2時間待たなければならない。ちょっとした居眠りで計3時間のロス。気楽な電車の旅とはいえ、気を緩めすぎてしまった。
目的地を変更しようかなとも思ったが、別に急ぐ用事でもないので、なんとか時間を潰しながら当初の目的地に行くことにした。今度は居眠りをしないようにして、無事に後藤寺線に乗る。天井には懐かしい扇風機が廻っている。終点の後藤寺駅まで安心して一眠り。




後藤寺駅に着いたが、日田彦山線が出るのは2時間後。時間潰しに駅周辺を散策することにした。駅を出るとアーケードの商店街を見つけた。うーん、人がいない。店も半分くらい閉まっている。日曜日だからだろうか。そうでもなさそうな気がする。
開いている店の前にさしかかると、そこが何屋さんかすぐわかる香りが漂ってくる。文房具屋、布団屋、家具屋など、古い店ならではの商品がかもし出す独特な香り。すごく懐かくて味わいのある香りだ。特に文房具屋の香りは小学生の時を思い出す。あー来て良かった。あの時寝過ごさなければ、ここに来ることはなかった。
それにしても全然人とすれ違わないのだけど。炭鉱が繁栄していた時には、さぞや賑わっていたのだろう。栄枯盛衰のはかなさを感じつつ、商店街を後にする。




アーケードを出ると、真上からの日差しと、アスファルトからの照り返しが待っていた。まじで暑いが、いける所まで行ってみよう。何かないかとキョロキョロしつつ歩いていると、これまた古い建物を発見した。1階部分に広い空間がある。西鉄のバスセンターだった。後日調べたら上層階にはかつて映画館があったそうだ。ここにも衰退の影が。

さらに歩いてゆくと、大きな鉄橋があった。下にあるのは日田彦山線と平成筑豊鉄道の線路だ。それにしてもこれといった目的もなく、炎天下の中を歩くのはしんどい。日陰を見つけて一息きつく。
休憩したら逆に歩き回る気力がなくなってきたので、駅に戻ることにした。時計を見ると、電車が来るまで後1時間。誰もいないホームで、ビール缶片手に本を読んで気長に待つ。




電車が来た。あ〜冷房がありがたい。
彦山川に沿って電車は走る。川はだんだん細くなり、遠くに見えていた山はいつしか目の前まで迫っていた。彦山駅まで来ると、川の水がとても澄んでいるのが電車からも見えた。次の駅までは幾つものトンネルを通過しつつ、深い山の中を走る。駅の区間もこれまで最長ではなかろうか?
そして筑前岩屋駅にて下車する。無人駅とは思えないほど大きくて立派だった。
ここから次の大行司駅まで歩いて、三つのメガネ橋を見るのが今回の目的である。ゆるやかな下り坂なので楽勝だ。道の脇を流れる宝珠山川の清流が、日差しにきらめいて実に美しい。と思ったのは一瞬だけ。見上げると灰色の雲がみるみるうちに空を覆ってきた。




最初のメガネ橋にはすぐに到着。すると突然電車が現れた。全く接近に気付かなかった。慌ててシャッターを押す。何とか間に合い一安心。やはり電車通過中の方が、橋の姿が際立つ。本数が少ない路線なので幸運であった。




次が最も長いメガネ橋だ。棚田からカエルの合唱が聞こえる。とても穏やかで静かな里山の景色に、橋はとても良く融合している。アーチという丸い形状が、自然界の調和をイメージさせるからかもしれない。

ところで先ほどからカエルの合唱は、さらに大きくなってきている。もう既にポツリポツリと雨が落ちてきているのだ。折りたたみ傘を持ってきていて良かった。




ボタッ! と大きな雨のしずくが落ちてきた直後、熱帯のスコールを彷彿させるような大雨が降り出した。足元は一瞬のうちにビショビショ。上半身は傘のおかげで濡れるのを免れた。いや、ところがそうじゃない。すごく蒸し暑くなってきて、晴れてたときよりも汗が出てきた。上半身は汗でビショビショ。傘をささないほうが涼しいかも。

最後のメガネ橋に到着。通り雨かと思ったが、雨は全然やむ気配がない。長居をせず、歩くことにした。




次の駅の近くまで来たところで、「絵本作家原画作品展」という看板を見つけた。電車が来るまでかなり時間があるので、ちょっと立ち寄ってみることにした。会場である宝珠山小学校の体育館に入る。ずらりと並ぶ絵本の原画の数々、製本された絵本も手にとって見れるので、原画と見比べながら読む。原画からは、ぬくもりや絵の具の質感が伝わってくる。とても面白い経験をすることができた。




宝珠山小学校には古い木造の校舎が残されている。コンクリートの新しい校舎はあるので、たぶん今は使われていないと思われる。一台の車が入ってきた。下りてきたご夫婦が「懐かしいね」と会話しながら旧校舎の写真を撮っていた。卒業生だろうか。ここに来れば懐かしいあの頃に戻れる。そんな場所があるのを羨ましく思った。




とてもレトロチックな建物の「高倉健 資料館」を見つけた。建物は昔役場だったらしい。高倉健さんは小学生の頃、単身赴任していたお父さんを訪ねて、ここ宝珠山村に滞在していたことがあるらしい。
資料館内には当時のポスターやパンフレットなどが所狭しと並んでいた。健さんといえば菅原文太さんらと並び、ヤクザ映画ブームの頃が最も銀幕スターとして輝いていたみたいだが、個人的には小学校の時に観た「野生の証明」や「八甲田山」が印象に残っている。




そろそろ電車が来る時刻なので、最寄の大行司駅へと向った。小さな駅舎は開業当時のままという。待合室にて一人待つ。誰も他に乗る人はいないようだ。ベンチも窓枠も木造。止まった時間の中にポツンとたたずむ。
ホームは駅舎からずっと上にあり、石段を上がって行くことになる。雨はすっかりあがり、夕暮れ迫る空に向ってツクツクホウシが忙しく鳴いていた。